横浜地方裁判所 昭和40年(ワ)536号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕被告会社は営業用普通自動車による運送営業者であり被告美野は被告会社の被用者としてタクシー等の営業用乗用自動車運転の業務に従事しているものであること、昭和三九年九月八日一四時三〇分頃川崎市古川通二五番地上において、川崎駅より新川橋方面に向つて被告美野が被告会社の保有する営業用普通乗用自動車(登録番号神五あ四四九〇号)を運転し、原告に衝突したことは当事者間に争いがない。
本件事故の原因、原告および被告美野の過失の有無の点につき検討する。
<証拠略>を綜合すれば、被告美野は被告車を運転し客待ちのためイ点に停車していた、そのすぐあとに大沢の運転する自動車も停車していたこと、そのとき臨港バス二台が大島方面に向つて銀柳街との交差点の手前にセンターラインにそい'に停車していたこと、被告美野は客の合図があつたのでロ点まで(バス停留所の少し手前)に徐行しながら前進したとき、バスの扉附近であるホ点に立つていた原告がさいかや前バス停留所の方に小走りで来てニ点にいたのを発見したので被告美野は急ブレーキをかけハ点で停車した直前原告は被告車の右前照灯附近に衝突し、その場に倒れたのであり、本件接触地点はハ点であること、被告美野はイ点附近に停車していてホ点附近にいる原告を発見したが横断歩道を通つてバス停留所に引返すものと判断し(このことは後記の点よりして当然である。)、時速二〇キロメートルの速度で進行しロ点にさしかかつたところニ点附近を右肩をバスの方に向け顔もバスの方に向けて小走りにバス停留所の方に引返してくる原告を発見したので急ブレーキをかけたが原告に衝突したこと、それよりして被告美野は本件事故当時通行区分を遵守し、徐行義務、前方注視義務その他道路交通法所定の運転者として要求せられる義務に違反することなく自動車を運転していたこと、原告は横断歩道からセンターラインに沿つて信号待ちのため一時停車していたのバスのところまで車道に出てホ点にきたが、バスに乗車できなかつたため急ぎバス停留所に向つて道路を斜めに横断したこと、そのことのため原告の右通行方法は明らかに道路通行違反であり重大な過失があること、すなわち歩行者は横断歩道がある場合の附近においては横断歩道によつて道路を横断しなければならない義務があるし、また仮りに横断歩道によらず車道を横断するにしても歩行者は斜めに道路を横断してならない義務があるのに、原告はそのいずれにも違反したため本件事故を起したものであること、以上の事実が認定できる。
<証拠略>には右認定に反する供述部分があるが、それは前掲証拠およびそれにより認定した事実と対比して措信できないし、<証拠略>も右と同様にして前記認定を覆す資料とはなりえない。(なお被告美野は金二万円の罰金刑が確定していることは<証拠略>により認められるが、それのみによつて被告美野の過失を断定し前記認定を拘束することはできない。)
他に右認定に反する証拠は存しない。
次に<証拠略>によれば、被告会社は従前より被告美野の採用についても、雇傭中の運転業務の監督についても充分留意して常に業務上の事故をおこさないよう一カ月に少くとも二回事故防止懇談会、業務懇談会を通じて訓練、指導を実施していたことが認められるので、被告会社も被告車の運行に関し注意を怠らなかつたということができる。
<証拠略>によれば、被告会社において運行の用に供している自動車はすべて(一)一カ月に一回本社車両係による乙第三、四号証の点検、検査項目に従い点検を実施し、(二)八日目毎に一回車両の所属する営業所の検査主任者立会のもとに乙第二号証の項目に従い点検をなし最終的に副長が確認し、(三)さらに毎朝七時頃その日の出庫前に当該車両運転者による乙第一号証の仕業および出庫点検の項目に従い点検をなし副長の確認をえて出庫しており、被告車についても前記(一)(二)の点検の際に異常が認められず、さらに被告美野は事故当日午前六時二〇分から四〇分までの間仕業および出庫点検をなし異常がなかつたので副長の確認を得たうえで出庫したのであり、被告車に構造上の欠陥または機能の障害はなかつたことが認定できる。
以上の次第で被告会社および被告美野が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、原告に過失があつたことならびに被告車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことが証明されたゆえ、爾余の点につき判断をすすめるまでもなく被告らには本件事故による損害賠償の義務はないものといわざるをえない。
よつて原告の請求は失当として棄却を免れない。そこで民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。(藤原康志)